NEWS

Column|サンパウロからの手紙──TEMPO SEM TEMPO vol.2

2016年にリリースした、ハファエル・マルチニ、ベルナルド・ハモスとのアルバム«GESTO»で、ブラジル新世代の室内楽シーンを牽引する最需要人物の一人であることを強烈に印象づけた、クラリネット奏者/作曲家ジョアナ・ケイロス。2019年11月に念願の初来日をした、ジョアナ・ケイロスにアルバム«TEMPO SEM TEMPO»の各曲について解説いただきました。(2020/04/30メルマガ再掲 全2回)

1. O Barco
2018年にアルゼンチンのパラナで作曲をテーマにしたアーティスト・イン・レジデンスに参加しました。この土地はカルロス・アギーレ、セバスティアン・マッキが暮らす町であり、インスピレーションに富んだ美しい音楽が生まれる、私にとっては特別な場所です。私がその町で過ごした3週間、川のすぐ近くにある家に泊まりました。パラナ川とウルグアイ川が合流し、この地域には“litoraleña(リトラレーニャ:岸辺の)”と呼ばれるスタイルの音楽があります。この曲は、漁師たちが川を行き来する音を聞きながら、夜の川の神秘的なエネルギーにインスピレーションを得て、この家の滞在中に作曲しました。

2. Memórias
いつどのような状況で書き始めたのかあまりよく覚えていないのですが、以前に書き留めておいたアイディアから完成させました。私たちは、新鮮な感覚や、鮮烈な印象などたくさんの記憶をどこかにしまっています。なんとなくノスタルジックで、どこかに置き忘れていた、過ぎ去ったいろいろなモーメント、そんな記憶から生まれました。

3. Seu Olhar
精神的な助言者のような存在であり、私にとって偉大な愛すべきアイドルである、ジルベルト・ジルのこの曲には、偶然出会いました。なんとなく開いたソングブックのページにこの曲を見つけ、オリジナルの楽曲を知らないまま、そこに書かれていた内容に魅了されてしまいました。そのため、原曲とは異なります。ライブでループを使って演奏するために繰り返すパートがあり、この曲は時空を超えることについて歌っているので、アルバムと素晴らしく融合したと思います。視線は、別次元へとつながるトンネルに向けられています。

4. Cidade
サンパウロでコンサートがあり、ホテルでクラローネを練習していたときに、都会のエネルギーを感じながら書き始めた曲です。ある日、以前Instagramに自分で投稿した曲の一部を見つけて、気に入って完成させることにしました。アイディアが突然閃き、長い時間をかけて形になっていくのを客観的にみるとおもしろいなぁと思います。クラリネットを録音してから、友人であるSergio Krakowski (セルジオ・クラコウスキー)がパンデイロを、Bruno Qual (ブルーノ・クアル)が、都会の緊張を表現するために、音を圧縮し、他の音を加えるなどしました。

5. Beira de Rio, Beira de Mar / Jóia
この曲の前半も、パラナ川で作曲しました。長いこと聴いていなかった“Jóia”は偶発的に混ぜ合わせました。録音した曲の一部をSNSに投稿したときに、友人のミュージシャンLivia Nestrousky(リヴィア・ネストロフスキー)にコメントをもらい、(Joyceが歌うこの曲を知っていたのですが)カエターノの素晴らしい楽曲のひとつであるこの曲のいろいろなバージョンを数日聴き続けました。すごく気に入って、私の川岸とみんなの海岸であるこの曲を融合させるのはとても理にかなっていると思いました。ふたつの岸に橋をかけるように、ふたたびBruno Qualが音の圧縮をしてクリエーションし、Domenicoが歌のリズムの層を追加し、リバーブを通して美しい想像的言語に帰結しています。

6. Tempo sem Tempo
Wisnik本人のライブで初めてこの曲を聴きました。あの場にいた何人もが涙したと思いますが、自然と涙が溢れてきて、しばらく頭から離れませんでした。琴線に触れる要素はいくつもありました。歌詞が素晴らしいのはもちろん、語りかけてくるメロディー、合唱のようなハーモニーに、決まりのない長さ。幾重にも“時間のない時間”で、その時の私の心にとても響いた歌でした。ときどき聴こえてくる音は、私が世界の国々を訪れたときに録音した環境音です。

7. Dois Litorais
このライナーノーツを書きながら、音楽のほうから私たちに近づいてくるのだという結論に至りました。この曲も、Mariá (クアルタベーの仲間、ドラマーのマリアー・ポルトガル)のライブで演奏したときに出会った曲です。私がつくる曲は、大抵ハーモニーの道筋がより長く、ルーパーを使ってのライブにあまり適しておらず、そういった課題への取り組みからこのアルバム制作はスタートしました。この曲は反対にそういった演奏方法にぴったりでした。新しく手に入れた(ルーパーの)ペダルに見つけた表面上は灰色だけれど海底や、魚の群れや、海の神秘を想起させるような音がとても気に入っています。

翻訳:宮ヶ迫ナンシー理沙
インタビュー/編集:SPIRAL RECORDS

サンパウロからの手紙──TEMPO SEM TEMPO vol.1(2020/04/23配信)
サンパウロからの手紙──TEMPO SEM TEMPO vol.2(2020/04/30配信)