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Column|フォルクローレ──アルゼンチンの大地の歌声 vol.02 フォルクローレの収集家たち

アルゼンチンのネオ・フォルクローレ・シーンで最も世界性をもつシンガーSilvia Iriondo。彼女は自身の音楽活動と並行して、アルゼンチンにおけるフォルクローレの歴史についても長い時間をかけてリサーチを続けています。彼女のフォルクローレに対する深い理解と愛情を垣間見ることができる書き下ろしのテキストを3 回にわたりご紹介します。
第2回(2020/04/09掲載)

アルゼンチンの最も著名な収集家には、ルベン・ペレス・ブガジョ(Rubén Pérez Bugallo, 1945-2007)、 イサベル・アレツ(Isabel Aretz, 1909-2005)、カルロス・べガ(Carlos Vega, 1898-1966)、マヌエル・ゴメス・カリージョ(Manuel Gómez Carrillo, 1883-1968)、レダ・バジャダーレス(Leda Valladares, 1919-2012)の名前が挙げられます。

彼らは、私たちの起源の謎に迫ることで脈々と受け継がれてきた文化という名の財産に光を当てました。2014 年に私がリリースをした"Anónima"は、レダ・バジャダーレスによって採集された匿名の歌をトリビュートした作品です。この作品はアルゼンチン国立芸術基金の一等賞を受賞しました。

レダの作品は私たちの歴史の一部を記録しています。深みのある歌は私たちの心に響きます。魂は哭呼吸するかのごとく、山の麓で自らの威厳を歌い上げます。文化を知るということは、その歴史の糸口をつなぎ合わせていくことです。民衆は風と共に歌を扇動します。時にそれは叫びであったり、時には恐れであったり、常に時の流れに抗って何かしら行動しようと試みてきました。匿名の歌とは、地平線を照らし、忘却を呼び覚ます心の叫び声なのです。

レダは、自らの研究を「フォルクローレの真理は、先祖代々から受け継がれる法、山、野原に存在します。自由かつ宇宙的な叫びの声なのです。」と述べています。情熱的な探求心を「古(いにしえ)」の中で追い求め、忘却の彼方から美しさと新しい発見を見つけ出すことに心血を注いてきました。レダと親しかったアルゼンチンのフォルクローレ・ギタリストで作曲家でもあるアタウアルパ・ユパンキ(Atahualpa Yupanqui, 1908-1992)は「地方の歌い手の価値を高めた。満ちた月のように。こうして我々に幸運
をもたらし、古くから伝わるアルゼンチンへの親愛を忘却から救い出すのだ。」と彼女の活動へ賛辞を述べています。

アルゼンチンのフォルクローレ音楽は声と時が組み合われた複合的な地図のようなもので、そのルーツは匿名性にありますが、後に歌い手や作曲家によって自らのルーツや現実、人々の生活を情緒豊かに写実し、多くの発展を遂げました。

アタウアルパの作品は音楽的・詩的観点の地平を自由に行き来しながら、伝統的なアルゼンチンのフォルクローレに優れた歌詞をのせることで新たな側面を構築しました。人と景観の両方が彼の作る作品に同居しています。

時には山であったり、平原であったりと様々ですが、彼の作品は常に人間の孤独や運命の不条理、自然の恐ろしさについて綴られています。古くからの言い伝え、苦悩、追放、郷愁がアタウアルパの作品の主題なのです。
全ての民衆は自らの声で各々の物語を語ります。ガウチョ、農業労働者、荷車引き、なめし工職人も厳格で気品のあるギターに誘われます。「エル・エスクチャード(聞いた人)」は語り、沈黙の中で故郷について歌います。

アルゼンチンという国の文化的アイデンティティーとは、自らの詩を物語ることにあります。ビダーラ、サンバ、ミロンガ、ウアイアーノなど、それぞれが持つカラフルなリズムと共にその景観を語ります。愛を歌う 「Elportezuelo(エル・ポルテスエロ)」には「私は決して何も言わなかった。でもなんて美しいんだろう。安らぎのために詩だけがある」というフレーズがあります。「エル・エスクチャード」は古くから伝わる田舎の表現で、広大な大地の中で深い孤独にいる人間とその世界観を描写しています。作品はこのように始まり、無限の静寂が支配します。聞く者は語り、時は止まります。

──こうして私たちは歩み続け、孤独は日を浴びる
世界を見失い、再び見つける
こうして私たちは遠くから見て自分を認識する
私たちが噛む歌は大きな種となる
こうして私たちは歩み続け、孤独は日を浴びる
死んだ私たちの中に誰も残されないように
私には数え切れないほどたくさんの兄弟がいる
自由という名の美しい姉妹がいる

私の作品"El Escuchado"(1992)は、アタウアルパ・ユパンキの13 曲の作品を挙げてトリビュートしています。アタウルパの生涯を世に広めるべく制作され、発表しました。指導者、教師、知識人によって、このような歩みは後世の音楽に大きな軌跡を遺しています。アタウアルパ・ユパンキは間違いなくその第一人者の一人と言えるでしょう。

文:シルビア・イリオンド/訳:坂本悠
vol. 03 ──後世の音楽へと続く軌跡