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Column|フォルクローレ──アルゼンチンの大地の歌声 vol.01 歌に込められた想い

アルゼンチンのネオ・フォルクローレ・シーンで最も世界性をもつシンガーSilvia Iriondo。彼女は自身の音楽活動と並行して、アルゼンチンにおけるフォルクローレの歴史についても長い時間をかけてリサーチを続けています。

2018年にSPIRAL RECORDS メールマガジン限定で配信された、Silvia Iriondoのフォルクローレに対する深い理解と愛情を垣間見ることができる書き下ろしのテキストを3 回にわたりご紹介します。

アルゼンチンのフォルクローレは景観、コミュニティ、歴史と国の文化全般に根付いています。広大かつ豊かな風景を持つこの国には、多様な気候、植物・動物相が織り成しています。 山脈、無限に続く平原、渓谷、ユンガ地域*1、塩湿地、海、砂漠、熱帯雨林に、太陽と輝く星によって照らされ延々と続く広大な空、小川
を流れは大地の恵みとなります。それぞれの地帯は唯一無二の様相、色彩、音色を持ちながら、環境や人々と密接に繋がっており、コミュニティが持つ物語、すなわち挫折、成長、移住、服従、征服、闘争の歴史をめぐる内なる旅へと私たちを誘います。

文化とはコミュニティを理解する上での一つの手段となります。伝統、風習、伝説、思想、夢。文化は手工芸、祭式、宗教観、習慣、食生活、信仰、健康などそれぞれの要素が合わさり成り立っています。私たちは文化を通し見て、話し、口を噤み、心を通い合わせるのです。文化の声は、芸術、絵画、写真、映画、書物、言葉、音楽へと反映されていきます。

アルゼンチンのフォルクローレは時の旅であり、他文化への旅であり、厳しい気候や必然性に応じてゆっくりと作り上げられていきました。この長い道のりを歩みはじめた最初の人々は、私たちのアイデンティティの特徴を決定づけ、避けて通ることのできないアフロ文化の存在と共に、大いなる多様性を持って様々な言語や文化、領土地帯も含めた先住民族のコミュニティを全土に渡って拡げていきました。匿名(作者不詳)の作品や脈々と受け継がれる民謡、荒削りな声、多様性に富んだ言語と音景は、フォルクローレ音楽を独創的なものへと発展させたのです。

匿名の歌は、後に誕生した全ての楽曲の中核としてアルゼンチンフォルクローレの礎を築く種を蒔きました。
それらの歌における唯一の作者は民衆です。人々の密接な生活の中で自発的に起こり、政治的、歴史的、社会的な認識の中で時間をかけて文化的に構築されていきました。それは、人々が共存するには必要な表現手段だったのです。そこには、情感、苦悩、格言、失望、神話などが反映されています。生きる人の人生と物語が誠実に綴られた作品なのです。人々の文化活動によって生み出された歌を見れば、その国の特異性を知ることができます。

歴史資料収集家や音楽民族学者は、これらの背景を研究・記録することで忘却から救い出し、私たちが何者であるかを再認識させてくれます。研究者たちは、今日の私たちの家、家族、故郷へと続く長い連鎖の「はじまり」を見出すべく、泉、山の影で失われた村の跡地、心に秘めた想いを詩に託した岸辺に佇む羊飼いの元へ、起源を探るべく訪れます。

フォルクローレは、移住によってもたらされた変化、声、リズムで構成され、そこに詩が加わることでさらに情緒豊かに表現されています。アフロ性、スペイン性、インディオ性、クレオール性が独自に融合することで私たちのアイデンティティ、つまりアルゼンチンらしさが構築されていきました。

匿名の歌は時によって編まれた旅であり、過去が示す真実を明らかにします。過去は驚きや閃き、疑問を私たちに投げかけます。国の歴史はそれらの歌の中に存在しているのです。フォルクローレに関する資料収集は、そのコミュニティが持つ機密事項を記録する地味で骨の折れる作業です。収集家は対象となるコミュニティの人々と積極的にコンタクトを取ります。信頼関係を構築して、受け入れられた者だけが内側を見ることが許されるのです。

*1 海抜500 - 2300 メートル地帯で降水量の多い地域の名称
文:シルビア・イリオンド/訳:坂本悠
vol. 02 ──フォルクローレの収集家たち